着物とアパレルの世界を経て、明智町にUターンした水野琴美さんと、二十四節気に出あう

Interviewee

水野琴美さん(以下:琴)はゑなの結の編集長である。恵那市明智町で生まれた彼女は人生の前半を着物とアパレルの世界で過ごしてきた。

週ごとに商材がどんどん変わっていく厳しくも華やかな世界でセールスをしていく中で、アパレル独自の季節感への敏感さにふれてきた。

琴「アパレルの世界は、常に先どり。年が明けるとすぐにマリンな柄を出す。実際は年明けなんて一番寒いんだけど、アパレル的にはそれが売れる法則になっていて。着物の世界もそう。着物では、少し先どりをするのが基本になっていて、それが粋なの。例えば年が明けると福寿草の柄を着てもいいけれど、実際に福寿草が咲くのは2月下旬~3月。桜の季節には桜の柄の着物は着ない。実際の自然にある植物や季節感のある柄を立てよう、という意識」

結婚を機に恵那市明智町に戻ったあとも大好きな着物の仕事をするために名古屋へ通う毎日だった。着物の世界は、厳しかったがみんなが真剣に着物を売ろうと真剣でおもしろかった。着物を売れば、呉服作家さんが作家活動を続けられるということも励みになった。

一方、恵那の暮らしの中ではアパレルやビジネスとはかけ離れた世界を味わうことになる。

琴「鳥のさえずりで目を覚ましたり、蛙の鳴き声が電話口で聞こえて、相手にびっくりされたりね」

それは恵那ではよくあることだが、都会での生活を経たあとでは新鮮な驚きの日々だった。

琴「昔は人工的なものが好きだったんだけど、出産を経て、季節にすごく敏感になった。季節がうつっていくのが前よりもわかるようになった。野に咲いている花が、わあ綺麗って思えるようになった」

恵那市の町づくりにひょんなことから関わるようになったのと同時に、SDGsが叫ばれているのを知った。「誰ひとりとり残さない」という平等性をかかげるスローガンのなか、年ごとに分断は増え、社会問題のニュースが耳に入ってくるようになった。

琴美さんは地域の問題にもふれるなかで、「誰ひとりとり残さない」がほんとうにそうだったらいいなと感じつつ、実際はひとりひとりがすべてのひとと同じものさしを持っているわけではないから、問題解決というのは一筋縄ではいかないのでは?と疑問をかんじていた。

そんななかで、コロナ禍が訪れた。百貨店の着物の仕事も翳りがみえ、恵那市での仕事に転職をしたのだった。

人間はウイルスによって右往左往し、琴美さん自身も不安で揺れ動いた。

しかし自然に目をやると、自然は季節とともにあり、いつもと変わらず啓蟄には虫が動き出し、春分の頃にはモクレンが咲く。ツバメがきて、田植えをして、梅雨がきて…季節が巡っていく。

誰にでも平等にやってくる、季節。

人生の大半をともにしてきたアパレルの世界でつちかった「季節感」と、恵那の自然の「季節感」がすっとつながった。

琴「わたしのなかで、季節感覚っていうのがものすごく大事なんだなってわかった。

貧しいひとだから、夏が来ないなんてことはないじゃない?だれにでも必ず季節はやってくる。だから、季節をかんじるセンスを養って、それをコミュニティ内でシェアすれば、もっと深くつながれるなって思った。

それに日本の文化は季節に根差しているから、恵那・中津川の二十四節気を掘り下げるってことは、文化の保存になるなと思ったの。

さらに、何かお店とかをはじめたい、とかいう人にとっても季節感覚をもつことは、すごく『得』になるなと。

例えば、クラシック音楽の世界だと、曲を弾くときに時代背景とか作者の住んでいた街をイメージして、そこを歩いている感じで表現すると空気感が表せたりするでしょう。季節もそのような感じで、何かを伝えたい人が季節感覚を得ていると、受けてに伝わる印象がわたしの体感では2割増し、いやそれ以上になる」

SNSが重要になってきた昨今、発信するときも二十四節気を意識すると、お客さんに魅力が2割増しで伝わるという。

琴「それで、二十四節気をテーマにした地域のフリーペーパーを作りたいなと思ったの」

すべてのひとに二十四節気というものさしがあれば、つながりあえるはずだと琴美さんは語る。その思いから年間24回というすさまじい量の発行をこなす。

琴「うちにはいま中1の子がいるけど、もしかすると恵那を出ていく日が来るかもしれない。明智町も過疎化は進んでいるからね。でも、二十四節気の感覚があれば、遠い地に行っても恵那の季節を思い出すかもしれない。いつか帰ってきたいなと子どもたちが思える地域をつくっていくためにも、この活動を広げていきたいなって」

これから春分号をつくります、と言う彼女の背景には、春の日差しが柔らかにふりそそいでいた。

3月中旬、水仙の咲く庭にて。

筆者:佐藤亜弥美

コメント

  1. ことみさんの考え方がよくまとめられて良い。

    生活の中で季節を楽しむのは日本人の特典、温帯モンスーンの蒸し暑さ、やたらに寒い冬、快適じゃないところが人間強くしてるんだろうね。でも反面悲観的で人生楽しんでない人多いかなぁ、俺はもっと楽しみたい。 真面目に目の前のこと頑張る、全体像見ないでひたすら頑張る恵那雑巾、亡き父にその姿を見ていた自分、もっと人生楽しみたい、カルフォルニアやフロリダのアメリカ人のように。